9. 格 (Case)

格は、名詞が文の中で果たす統語論的、意味論的、空間的、時間的な役割を定義する子音+母音の複合接辞。数(第8スロット)の直後(第9スロット)に付加される。プリャンナでは59種類の格が存在し、動詞のと密接に連携する。

  • 統語論格 (9個): 意図性、状態変化の有無。
  • 関係格 (11個): 所有権の譲渡性、起源の性質。
  • 意味論格 (8個): 付帯的な情報、様態、呼称。
  • 空間格 (23個): 幾何学マトリクスと抽象空間。
  • 時間格 (8個): 時間軸上の位置とパターン。

I. 統語論格類 (Syntactic Cases)

動詞のと連携し、文の主語や焦点の選択を決定する。

音素 役割 簡潔な意味
能格 pha agent 意図的に動作を行う主体。能動態の標準的な主語。
自発格 čhy force 意図がなく動作を行う主体(風、事故など)。
刺激格 li stimulus 感情や感覚を直接的に引き起こす主体(騒音など)。
経験格 sa experiencer 感覚や感情を経験する主体。中動態の標準的な主語。
対格 n patient 行為を受け、状態が変化する対象。逆受態で主語化。
題格 ‘a theme 行為を受けるが、状態が変化しない対象(知覚、移動など)。
具格 fwa instrument 行為を実行するために利用する具体的な道具
手段格 v manner 行為の抽象的な方法、手段、媒介
因格 ‘i cause ある行為が起こる理由や根拠(原因)。

9.1 能格 (Ergative Case)

形式: $\text{pha}$

意図的かつ自律的に行為を開始・コントロールする主体。動詞の能動態の標準的な主語として機能する。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ falmatiaifwap̌heisi}.$
  • 私-pha は [知る-法-態-相-時制-数-格-証拠性-極性-語調].
  • 意味: 「私が(意図をもって)その真実を知るだろう。」 (能動的な行為)

9.2 自発格 (Spontaneous Case)

形式: $\text{čhy}$

意図性を持たない主体(風、自然現象、抽象的な力)が、動作や状態変化を自律的に開始・コントロールする場合に用いる。能格のような意図性は無く、かつ因格のような抽象的な理由でもない、直接的に減少や動作を引き起こす力を表現するために使う。例えば、「風が吹く」の「風」のように、意思を持たないながらも動詞の動作を自律的に起こす場合に使う。

例文:

  • $\text{Wola}_{\text{自発格}} \text{ ranyum}.$
  • 風-čhy は [吹く-達成相-時制].
  • 意味: 「風が(勝手に)吹き終わった。」 (風の力による自発的な動作)

9.3 刺激格 (Stimulative Case)

形式: $\text{li}$

感情、感覚、認識を直接的、物理的または感覚的に引き起こす原因となる項。経験者格の項に感覚や感情を誘発する。因格が表す抽象的・論理的な原因とは異なり、感覚や感情に直接作用する。

例文:

  • $\text{Sora}_{\text{刺激格}} \text{ salyei}.$
  • 騒音-li が [私-経験格-継続相-時制-法].
  • 意味: 「その騒音が(私に)ずっと不快感を与え続けている。」 (騒音が感情を直接誘発)

9.4 経験格 (Affective Case)

形式: $\text{sa}$

外部からの使役者を前提とせず、ある動作や状態変化を意図せず経験する主体、または内的な感情を抱く主体。動詞の中動態と共に用いられることが多く、「受動的ながら主体的な」側面を表現する。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{経験格}} \text{ ghalia}.$
  • 私-sa は [恐れる-継続相-時制].
  • 意味: 「私が(自然と)恐怖を感じている。」 (意図しない内的な状態の経験)

9.5 対格 (Accusative Case)

形式: $\text{n}$

動作や状態変化の直接的な受け手となる項。動詞の行為が直接作用し、その項が物理的・情報的に変化すると見なされる場合に使用する。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ maba}_{\text{対格}} \text{ tula}.$
  • 私-pha は 石-n を [投げる-達成相-時制].
  • 意味: 「私が石を投げた(石の位置が変化した)。」 (行為により状態が変化)

9.6 題格 (Thematic Case)

形式: $\text{‘a}$

動作を行う主体でも、行為の直接的な受け手でもない、文脈における語りの中心となる主題。対格が伴う物理的な変化を伴わない場合に限定して適用する。「行為を経験するが状態の変化を伴わない場合」、あるいは「単に存在や属性の対象」である場合に限定して適用する。具体的には「知覚対象(見る、聞く)」の受動態的な表現や、「属性の対象」などに用いられる。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{経験格}} \text{ kofa}_{\text{題格}} \text{ fei}.$
  • 私-sa は 空-a を [見る-継続相-時制-法].
  • 意味: 「私が空を見ている(空自体は変化しない)。」 (知覚対象だが状態変化なし)

9.7 具格 (Instrumental Case)

形式: $\text{fwa}$

行為を実行するために利用する無生物の具体的な道具、物理的な手段となる項。能格や自発格が上位の行為者として存在する文脈で用いられる。行為そのものを行うのではなく、「物理的な道具」や「具体的な手段」として利用される場合に用いる。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lona}_{\text{具格}} \text{ p̌hala}.$
  • 私-pha は ナイフ-fwa を [切る-時制-法].
  • 意味: 「私がナイフを使って(具体的な道具)パンを切った。」

9.8 手段格 (Methodical Case)

形式: $\text{v}$

行為が行われるための抽象的な方法、情報媒体、経路といった概念的な「手段」を表す項。具格が「具体的な道具」や「物理的な手段」を指すのに対し、手段格は「方法論」や「経路」「情報媒体」といった概念的な「手段」を指す。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ loji}_{\text{手段格}} \text{ falmatia}.$
  • 私-pha は 論理-v を [知る-相-時制].
  • 意味: 「私が論理という方法(抽象的手段)によって知った。」

9.9 因格 (Causative Case)

形式: $\text{‘i}$

ある行為や状態、現象が起こる抽象的、論理的、あるいは行動の動機となる「理由」や「根拠」を表す項。多くの場合、直接的な作用ではなく、事象間の論理的な関係性や、前提条件としての原因を示す。刺激格が表す感覚・感情への直接的な誘発とは異なり、より広範で抽象的な「なぜそうなるのか」という論理的な理由や背景を表現する。

例文:

  • $\text{Homi}_{\text{因格}} \text{ ni}_{\text{能格}} \text{ tula}.$
  • 愛-’i のために 私-pha は [投げる-時制-法].
  • 意味: 「愛という理由(抽象的動機)によって、私はそれを捧げた。」

II. 関係格類 (Relative Cases)

他の名詞や事象との論理的・概念的な関係性を定義する。動詞の取る項間の抽象的、所有、または比較の関係を表す。

音素 役割 簡潔な意味
与格 mi beneficiary 受益者、行為の直接的な目的。
奪格 ni separation 非物理的、概念的、抽象的な空間からの分離や起源。
属格 static possession 静的・記述的帰属(材質、主題、分類)。
内属格 hi inseparable 本質的な不可分性(身体、人工物の部分、抽象的本質)。
外属格 hwu alienable 可譲、一時的な所有(財産、道具)。
創出格 võ dynamic origin 作者・原因としての動的な起源(創作、発生源)。
分格 ro part 全体の内の部分、分量。
集合格 ẓe membership 対象が特定の集合やクラスのメンバーシップを示す。
互格 čhye reciprocal 双方向的、対称的な相互作用。
基準格 standard 比較、評価、判断の基準点。
役割格 py role 変化の結果としての役割。「〜として、〜に変わる」。

9.10 与格 (Dative Case)

形式: $\text{-mi}$

受益者、あるいは行為の直接的な目的となる項をマークする。行為がその項の利益となるか、その項に向かって捧げられることを示す。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ maba}_{\text{与格}} \text{ tula}.$
  • 私-pha は 息子-mi に [石-対格-投げる-時制].
  • 意味: 「私が息子(受益者)に石を投げ渡した。」

9.11 奪格 (Ablative Case)

形式: $\text{-ni}$

非物理的、概念的、抽象的な空間(義務、感情、記憶、論理的前提)からの分離や起源をマークする。物理的な空間格の離脱とは明確に区別される。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{経験格}} \text{ falma}_{\text{奪格}} \text{ rhalia}.$
  • 私-sa は 義務-ni から [解放される-時制-法].
  • 意味: 「私が義務(抽象的な束縛)から解放された。」

9.12 属格 (Static Possessive Case)

形式: $\text{-lã}$

本質的な所有権を伴わない、静的な分類、材質、または主題の帰属を示す。単なる記述的な関係をマークする。

例文:

  • $\text{Kofa}_{\text{属格}} \text{ nola}_{\text{対格}}.$
  • 歴史-lã の [本-対格].
  • 意味: 「歴史に関する(主題の帰属)本。」

9.13 内属格 (Inalienable Possessive Case)

形式: $\text{-hi}$

所有者の意志に関係なく成立する本質的な関係(身体の一部、抽象的な本質、人工物の不可分な部分)をマークする。

例文:

  • $\text{Vema}_{\text{内属格}} \text{ raba}_{\text{題格}}.$
  • 体-hi の [腕-題格].
  • 意味: 「(体の一部である)腕。」

9.14 外属格 (Alienable Possessive Case)

形式: $\text{-hwu}$

所有者の意志によって変更・譲渡が可能な、可分・可譲な所有(財産、道具、一時的な状態)をマークする。

例文:

  • $\text{Vema}_{\text{外属格}} \text{ lofa}_{\text{対格}}.$
  • 私-hwu の [船-対格].
  • 意味: 「私が所有する(譲渡可能な)船。」

9.15 創出格 (Productive Case)

形式: $\text{-vô}$

行為(生産、原因)を伴う動的な起源や帰属を示す。作者や、ある原因によって生成された結果としての帰属を強調する。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{創出格}} \text{ nora}_{\text{対格}} \text{ tula}.$
  • 彼-vô の [作品-対格] が [存在する-時制].
  • 意味: 「彼(作者)によって作られた作品。」

9.16 分格 (Partitive Case)

形式: $\text{-ro}$

全体の内の部分、分量をマークする。ある集合や量から切り離された一部に言及する場合に用いる。

例文:

  • $\text{Paba}_{\text{分格}} \text{ muna}_{\text{対格}} \text{ lula}.$
  • 人々-ro の [一部-対格] が [去る-時制].
  • 意味: 「人々(全体)の中から、一部の者が立ち去った。」

9.17 集合格 (Membership Case)

形式: $\text{-ẓe}$

対象が特定の集合やクラスのメンバーシップを示す。あるグループへの所属を強調する。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{集合格}} \text{ hora}_{\text{題格}} \text{ lula}.$
  • 兵士-ẓe の [一人-題格] が [存在する-時制].
  • 意味: 「彼(は兵士の集合の)一員である。」

9.18 互格 (Reciprocal Case)

形式: $\text{-čhye}$

AとBが対称的かつ同時に、お互いを目的として行為を行う双方向的、対称的な相互作用を示す。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ hana}_{\text{互格}} \text{ ghalia}.$
  • 私-pha は 彼-čhye と [議論する-時制].
  • 意味: 「私が彼と(対等に)議論した。」

9.19 基準格 (Standard Case)

形式: $\text{-kæ}$

比較、評価、判断の尺度として参照される項をマークする。Aを評価するための尺度としてBを参照する。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ noma}_{\text{基準格}} \text{ pudaia}.$
  • 私-pha は 法律-kæ に [照らして行動する-時制].
  • 意味: 「私が法律(基準)に照らして行動した。」

9.20 役割格 (Role Case)

形式: $\text{-py}$

ある項が、変化の結果として得られたり、一時的に担っている機能や役割を示す。「〜として、〜に変わる」という変化の終点をマークする。

例文:

  • $\text{Wola}_{\text{対格}} \text{ kofa}_{\text{役割格}} \text{ čhala}.$
  • 水-n が 氷-py に [変わる-時制].
  • 意味: 「水が氷(変化の結果)になった。」

内属格・外属格・創出格の違い

No. 音素 (CV/C/V) 役割 論理的な違い
8. 内属格 (Inalienable) hi 不可分・不可譲の所有。「身体の一部」「親族関係」「本質的な属性」など。 所有者の意志に関係なく成立する本質的な関係。
9. 外属格 (Alienable) hwu 可分・可譲の所有。「道具」「財産」「一時的な状態」など。 所有者の意志によって変更・譲渡が可能な関係。
10. 創出格 (Productive) võ 作者・起源の所有。「Aによって作られたB」「Aの結果としてのB」など。 行為(生産、原因)を伴う動的な所有。

1. 内属格 ($\text{h}\text{i}$) の拡張

内属格 ($\text{h}\text{i}$) を、「対象 $X$ がなければ、所有者 $Y$ がその本質を失う」という関係だけでなく、「全体 $Y$ がなければ、部分 $X$ がその同一性を失う」という本質的な部分と全体の関係にまで拡張します。

概念 格の決定
生体の不可分性 私の、木の 内属格 ($\text{h}\text{i}$)
人工物の不可分性 本の表紙、車のドア 内属格 ($\text{h}\text{i}$)
抽象的な本質 議論の核心、概念の定義 内属格 ($\text{h}\text{i}$)

この拡張により、あなたの直感通り、「本の表紙」は内属格で表現されます。

2. 属格 ($\text{l}\text{a}$) の純粋化

内属格の役割を絞った結果、属格 ($\text{l}\text{a}$) は「本質的な所有権や不可分性を伴わない、静的な分類・材質・主題の帰属」という、さらに純粋な記述的役割に特化します。

概念 格の決定
材質 の指輪、のテーブル 属格 ($\text{l}\text{a}$)
主題/内容 歴史の本、哲学の分野 属格 ($\text{l}\text{a}$)
単位/時間 一時間の猶予、一キロの距離 属格 ($\text{l}\text{a}$)

3. 創出格 ($\text{v}’\text{o}$) の強化

作者や起源を示す創出格は、属格奪格とは明確に異なる、「行為の結果」としての帰属を強調します。

概念 格の決定
作者 の作品、の創造物 創出格 ($\text{v}’\text{o}$)
原因 地震の結果、努力の賜物 創出格 ($\text{v}’\text{o}$)

1. 奪格 ($\text{n}\text{i}$) の意味の曖昧さ解消

  • 空間格の脱出格/離脱格 ($\text{t}i, \text{f}i$) は物理的な空間(箱から出る、表面から落ちる)からの分離です。
  • 奪格 ($\text{n}\text{i}$) は、非物理的、抽象的な空間(感情、概念、義務、記憶)からの分離や起源を専門に扱います。

    : 「義務$\_{\text{奪格}}$から解放される。」(義務という抽象的な束縛からの分離)

2. 互格 ($\text{tʃ}’\text{e}$) のイメージ

互格は、共格($\text{m}\text{u}$ / AがBと一緒に行為をする)と異なり、AとBが対称的かつ同時に、お互いを目的として行為を行うことを示します。

  • 共格: 「私と$\_{\text{共格}}$が図書館へ行った。」 (方向は私から図書館へ)
  • 互格: 「私と$\_{\text{互格}}$が議論した。」 (行為は双方向的で対等)

3. 基準格 ($\text{k}\text{æ}$) のイメージ

基準格は、同格($\text{z}\text{i}$ / AとBが完全に等しい)と異なり、Aを評価するための尺度としてBを参照します。

  • 比較: $\text{A} \text{ [速い] } \text{B}\_{\text{基準格}}.$ (Aの速さをBの速さと比較)
  • 参照: $\text{[行動]}\{\text{能格}} \text{ [法律]}\{\text{基準格}}.$ (行動の規範を法律に照らして判断)

4. 役割格 ($\text{p}\text{y}$) のイメージ

役割格は、静的な状態(彼は教師である)ではなく、変化の結果として得られたり、一時的に担っている役割を示します。

  • 変化の結果: 「水が$\_{\text{役割格}}$になった。」(変化の終点としての役割)
  • 一時的な機能: 「この石をハンマー$\_{\text{役割格}}$として使う。」(一時的にその機能を採用する)

III. 意味論格類 (Semantic Cases)

意味論格は、文法的な主従関係を超え、特定の意味的役割や話し手の態度を示す。文の核となる構造(主語、目的語、主要な関係)から独立した、付帯的な情報、様態、態度などを表現する。

音素 役割 簡潔な意味
呼格 q’e vocation 直接的な呼びかけ、注意喚起。文法的な役割を持たない。
共格 mu comitation 行為を共に行う相手、あるいは同時に存在する付帯物。「〜と一緒に」。
並列格 č̣a coordination 単語、句、または節を対等な関係で連結する。「〜と、そして」。
欠格 wo abscence 実体的なアイテムや概念の欠如。「〜なしで」。
様格 ṣu manner 質的な状態や様態、行為の様子。「〜な様子で」。
同格 zi equality 同等性、類似性。「〜と同じくらい、〜のように」。
限定格 d’o limitation 抽象的な限定範囲。「〜限りで、〜の範囲内で」。
観点格 bi perspective 特定の視点、観点から物事を捉える。

9.21 呼格 (Vocative Case)

形式: $\text{-q’e}$

直接的な呼びかけ、注意喚起を目的とする項をマークする。文法的な役割(主語や目的語など)を持たず、発話から切り離された独立した機能を持つ。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{呼格}} \text{ munaia}.$
  • お前-q’e よ、[来る-時制-法].
  • 意味: 「(おい、)お前よ、来い。」 (直接的な呼びかけ)

9.22 共格 (Comitative Case)

形式: $\text{-mu}$

ある行為を共に行う相手、あるいは同時に存在する付帯物をマークする。「〜と一緒に」という付帯的な共同を意味する。互格(双方向的相互作用)とは異なり、主たる行為者は別に存在する。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ hana}_{\text{共格}} \text{ lula}.$
  • 私-pha は 彼-mu と [行く-時制].
  • 意味: 「私が彼(付帯物)と一緒に(図書館へ)行った。」

9.23 並列格 (Coordinative Case)

形式: $\text{-č̣a}$

単語、句、節を対等な関係で連結する項をマークする。「〜と」「そして」といった累加的な接続を示す。リストの2番目以降の要素に付加される。

例文:

  • hapha broan tanač̣a makwal.
  • 私-pha は パン-n水-č̣a を [食べる-現在-直説法].
  • 意味: 「私がパンと水を食べる。」

9.24 欠格 (Abessive Case)

形式: $\text{-wo}$

実体的なアイテムや概念の欠如を示す。「〜なしで」という、ある要素が存在しない状態をマークする。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{欠格}} \text{ tula}.$
  • 私-pha は 船-wo なしで [航海する-時制].
  • 意味: 「私が船なしで航海した。」

9.25 様格 (Qualitative Case)

形式: $\text{-ṣu}$

質的な状態や様態、あるいは行為の様子を示す。行為がどのように行われたかという性質をマークする。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ homa}_{\text{様格}} \text{ tula}.$
  • 私-pha は 静寂-ṣu な様子で [入る-時制].
  • 意味: 「私が静寂な様子で(静かに)入った。」

9.26 同格 (Equative Case)

形式: $\text{-zi}$

ある項が、別の項と完全に等しい、あるいは類似していることを示す。「〜と同じくらい、〜のように」という等価性をマークする。基準格(尺度)とは異なる、絶対的な等しさを意味する。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{経験格}} \text{ koma}_{\text{同格}} \text{ ghalia}.$
  • 私-sa は 神-zi と同じくらい [恐れる-時制].
  • 意味: 「私が神(と完全に等しく)恐ろしいと感じた。」

9.27 限定格 (Limitative Case)

形式: $\text{-d’o}$

抽象的な限定範囲を示す。「〜限りで、〜の範囲内で」という、ある概念や事象の有効な境界をマークする。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ liji}_{\text{限定格}} \text{ tula}.$
  • 私-pha は 知性-d’o の範囲内で [考える-時制].
  • 意味: 「私が知性(抽象的な範囲)の限りで考えた。」

9.28 観点格 (Perspective Case)

形式: $\text{-bi}$

特定の視点、観点、あるいは参照枠から物事を捉えることをマークする。「〜の観点から言えば」という、主観的な評価軸を示す。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ loma}_{\text{観点格}} \text{ tula}.$
  • 私-pha は 彼-bi の観点から [評価する-時制].
  • 意味: 「私が彼の観点から(その出来事を)評価した。」

IV. 空間格類 (Spacial Cases)

空間格は、物体の空間的な位置、移動の方向、領域の概念を、幾何学マトリクスに基づき詳細に表す。。23種類存在し、静的な位置から動的な移動経路、そして抽象的な非ユークリッド空間までを定義する。

幾何学マトリクス格

空間は、4つの領域(内部、境界、表面、隣接)と、4つの運動/静止(静止、経由、源泉、到達)の組み合わせで定義される。

位置 ↓ / 運動 → 静止 (AT) 経由 (VIA) 源泉 (FROM) 到達 (TO)
内部 (INTERIOR) 29. 在内格 ($\text{ca}$) 30. 経内格 ($\text{cu}$) 31. 脱出格 ($\text{ti}$) 32. 侵入格 ($\text{to}$)
境界 (BOUNDARY) 33. 在境格 ($\text{la}$) 34. 経境格 ($\text{lu}$) 35. 離境格 ($\text{či}$) 36. 接近境格 ($\text{čo}$)
表面 (SURFACE) 37. 在表格 ($\text{da}$) 38. 経表格 ($\text{du}$) 39. 離脱格 ($\text{fi}$) 40. 着地格 ($\text{fo}$)
隣接 (ADJACENCY) 41. 在隣格 ($\text{ka}$) 42. 経隣格 ($\text{ku}$) 43. 回避格 ($\text{si}$) 44. 接近格 ($\text{so}$)

9.29-9.32 内部領域 (INTERIOR: $\text{c-}, \text{t-}$)

集合の純粋な内部における位置と移動。

9.29 在内格 (Inessive Case)

形式: $\text{-ca}$

集合の純粋な内部での固定または静止を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{在内格}} \text{ kala}.$

意味: 「私が箱(内部)の中にいる。」

9.30 経内格 (Perlative Interior Case)

形式: $\text{-cu}$

集合の純粋な内部を経由する軌跡を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{経内格}} \text{ čala}.$

意味: 「私が箱(内部)の中を通って行った。」

9.31 脱出格 (Elative Case)

形式: $\text{-ti}$

集合の純粋な内部からの分離(脱出、起源)を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{脱出格}} \text{ dula}.$

意味: 「私が箱(内部)から脱出した。」

9.32 侵入格 (Illative Case)

形式: $\text{-to}$

集合の純粋な内部を終点とする収束(侵入)を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{侵入格}} \text{ tala}.$

意味: 「私が箱(内部)の中に侵入した。」


9.33-9.36 境界領域 (BOUNDARY: $\text{l-}, \text{č-}$)

集合の外側の縁、境界線、または輪郭上における位置と移動。

9.33 在境格 (Adessive Case)

形式: $\text{-la}$

集合の境界/輪郭上での固定または静止を示す。

例文: $\text{Mora}_{\text{自発格}} \text{ lapa}_{\text{在境格}} \text{ fala}.$ 意味: 「船が岸(境界)のところに停泊している。」

9.34 経境格 (Perlative Boundary Case)

形式: $\text{-lu}$

集合の境界/輪郭上を経由する軌跡を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lapa}_{\text{経境格}} \text{ gnala}.$ 意味: 「私が川岸(境界線)に沿って歩いた。」

9.35 離境格 (Delative Case)

形式: $\text{-či}$

集合の境界/輪郭上からの分離(離脱)を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lapa}_{\text{離境格}} \text{ bula}.$ 意味: 「私が川岸(境界)から離れた。」

9.36 接近境格 (Allative Boundary Case)

形式: $\text{-čo}$

集合の境界/輪郭上を終点とする収束(接触を目的とした接近)を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lapa}_{\text{接近境格}} \text{ tala}.$ 意味: 「私が川岸(境界)に近づいた。」


9.37-9.40 表面領域 (SURFACE: $\text{d-}, \text{f-}$)

集合の純粋な表面上における位置と移動。

9.37 在表格 (Superessive Case)

形式: $\text{-da}$

集合の境界/表面での固定または接触を示す。

例文: $\text{Mora}_{\text{自発格}} \text{ lofa}_{\text{在表格}} \text{ kala}.$ 意味: 「石が机(表面)の上に乗っている。」

9.38 経表格 (Perlative Surface Case)

形式: $\text{-du}$

集合の境界/表面を経由する軌跡(横断)を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lapa}_{\text{経表格}} \text{ dula}.$ 意味: 「私が橋(表面)の上を渡った。」

9.39 離脱格 (Ablative Surface Case)

形式: $\text{-fi}$

集合の境界/表面からの分離(離脱、剥離)を示す。

例文: $\text{Mora}_{\text{自発格}} \text{ lofa}_{\text{離脱格}} \text{ bula}.$ 意味: 「石が机(表面)から落ちた。」

9.40 着地格 (Sublative Case)

形式: $\text{-fo}$

集合の境界/表面を終点とする収束(着地、接触)を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{着地格}} \text{ tala}.$ 意味: 「私が机(表面)の上に座った。」


9.41-9.44 隣接領域 (ADJACENCY: $\text{k-}, \text{s-}$)

集合の近傍、すぐ近くにおける位置と移動。接触はしない。

9.41 在隣格 (Proximative Case)

形式: $\text{-ka}$

集合の隣接領域での固定または静止を示す。

例文: $\text{Mora}_{\text{自発格}} \text{ lofa}_{\text{在隣格}} \text{ kala}.$ 意味: 「石が箱(隣接)のすぐそばにある。」

9.42 経隣格 (Perlative Proximative Case)

形式: $\text{-ku}$

集合の隣接領域を経由する軌跡を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{経隣格}} \text{ čala}.$ 意味: 「私が箱(隣接)のそばを通り過ぎた。」

9.43 回避格 (Evasive Case)

形式: $\text{-si}$

集合の隣接領域からの分離(遠ざかる、回避)を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{回避格}} \text{ bula}.$ 意味: 「私が箱(隣接)から遠ざかった。」

9.44 接近格 (Approximative Case)

形式: $\text{-so}$

集合の隣接領域を終点とする収束(接近)を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{接近格}} \text{ tala}.$ 意味: 「私が箱(隣接)の近くまで接近した。」


その他の特殊空間格

幾何学的な位置関係を超えた、抽象的・概念的な空間を表す格。

音素 case 意味
中間格 intermediary 2項以上の対象間の非対称的な仲介空間。
相対格 relative 運動の幾何学的基準、または空間的な比較尺度。
外部格 yẽ exterior 集合 $A$ の純粋な外部 ($\text{Ext } A$)。
虚無格 ã void 非存在としての空間、論理的な「無」への言及。
全域格 ṣi ubiquitous 存在する全ての空間、普遍的な場所。
不可知格 k’æ̃ unknowable 認知不能な場所、空間として定義不能な領域。
時空格 t’i spacetime 4次元時空 (t, x, y, z) における単一の事象点(静止位置)を示す。

9.45 中間格 (Intermediary Case)

形式: $\text{-mõ}$

2項以上の対象間の非対称的な仲介空間を示す。間に存在する緩衝地帯や媒介物をマークする。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ fala}_{\text{中間格}} \text{ tula}.$ 意味: 「私が森(仲介空間)を通って行った。」

9.46 相対格 (Relative Case)

形式: $\text{-ræ}$

運動の幾何学的基準、または空間的な比較尺度を示す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{相対格}} \text{ tala}.$ 意味: 「私が船(基準)に対して相対的な位置に移動した。」

9.47 外部格 (Exterior Case)

形式: $\text{-yẽ}$

集合 $A$ の純粋な外部 ($\text{Ext } A$) を示す。内部・境界・表面・隣接といった定義された空間の外側全域を指す。

例文: $\text{Mora}_{\text{自発格}} \text{ lofa}_{\text{外部格}} \text{ kala}.$ 意味: 「石が箱(純粋な外部)の外に存在している。」

9.48 虚無格 (Void Case)

形式: $\text{-ã}$

非存在としての空間、論理的な「無」への言及をマークする。物理的な空間の外側や、概念として定義不可能な「空虚」を指す。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{虚無格}} \text{ tala}.$ 意味: 「私が虚無(論理的な無)へと近づいた。」

9.49 全域格 (Ubiquitous Case)

形式: $\text{-ṣi}$

存在する全ての空間、普遍的な場所を示す。場所を特定せず、どこにでも存在する概念をマークする。

例文: $\text{Homi}_{\text{経験格}} \text{ lofa}_{\text{全域格}} \text{ kala}.$ 意味: 「愛(概念)は普遍的な場所(どこにでも)に存在する。」

9.50 不可知格 (Unknowable Case)

形式: $\text{-k’æ̃}$

認知不能な場所、空間として定義不能な領域を示す。神話や超越的な存在が位置するような、人間の知覚を超えた領域を指す。

例文: $\text{Hana}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{不可知格}} \text{ tala}.$ 意味: 「彼が不可知な場所(認知不能な領域)に行った。」

9.51 時空格 (Spacetime Case)

形式: $\text{-t’i}$

4次元時空 (t, x, y, z) における単一の事象点(静止位置)を示す。時間軸と空間軸を統合した位置をマークする。

例文: $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ lofa}_{\text{時空格}} \text{ kala}.$ 意味: 「私がこの特定の時空点に(静止して)存在している。」

V. 時間格類 (Temporal Cases)

時間格は、出来事や状態が時間軸上のどこに位置し、どのようなパターンを持つか、つまり時間軸上の点、期間、開始、終了、周期性を詳細に表す。

phone case 意味
時点格 re punctual 時間軸上の単一の点(時刻、瞬間)。
期間格 pu durational 時間軸上の開いた区間(開始・終了を含まない継続)。
始点格 čhyo initial 時間軸上の開始境界(時間の起源、From $t_0$)。
終点格 xe terminal 時間軸上の終了境界(時間の極限、Until $t_1$)。
頻度格 lẽ frequency 時間軸上の周期性や反復パターン。
先行格 oi anterior イベントを基準とした過去の相対的な位置。
後続格 ou posterior イベントを基準とした未来の相対的な位置。
同時格 au simultaneous 複数のイベントの時間的な共有(同期)。

9.52 時点格 (Punctual Case)

形式: $\text{-re}$

時間軸上の単一の点、時刻、または瞬間を示す。時間の継続性を含まない、特定の一点をマークする。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ maba}_{\text{時点格}} \text{ tula}.$
  • 私-pha は 3時-re に [出発する-時制].
  • 意味: 「私が3時(ちょうどその瞬間)に出発した。」

9.53 期間格 (Durational Case)

形式: $\text{-pu}$

時間軸上の開いた区間(期間)を示す。開始と終了の境界を含まない、行為の継続をマークする。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ maba}_{\text{期間格}} \text{ falatala}.$
  • 私-pha は 一時間-pu の間 [作業する-時制].
  • 意味: 「私が一時間の間(開始と終了を除いて)作業を継続した。」

9.54 始点格 (Initial Case)

形式: $\text{-čhyo}$

時間軸上の開始境界を示す。「〜から(From $t_0$)」という、継続や変化の時間の起源をマークする。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ maba}_{\text{始点格}} \text{ falatala}.$
  • 私-pha は 昨日-čhyo から [作業する-時制].
  • 意味: 「私が昨日(を起点として)作業を始めた。」

9.55 終点格 (Terminal Case)

形式: $\text{-xe}$

時間軸上の終了境界、時間の極限を示す。「〜まで(Until $t_1$)」という、行為や状態の時間的な終点をマークする。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ maba}_{\text{終点格}} \text{ falatala}.$
  • 私-pha は 明日-xe まで [作業する-時制].
  • 意味: 「私が明日(を終点として)作業を継続する。」

9.56 頻度格 (Frequency Case)

形式: $\text{-lẽ}$

時間軸上の周期性や反復パターンを示す。「〜ごとに」「〜の頻度で」という、イベントの規則的な発生をマークする。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ maba}_{\text{頻度格}} \text{ tula}.$
  • 私-pha は 毎日-lẽ [走る-時制].
  • 意味: 「私が毎日(という頻度で)走る。」

9.57 先行格 (Anterior Case)

形式: $\text{-oi}$

あるイベントや時点を基準として、過去の相対的な位置を示す。「〜より前に」という、時間軸上の前後関係をマークする。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ maba}_{\text{先行格}} \text{ tula}.$
  • 私-pha は 会議-oi の前に [準備する-時制].
  • 意味: 「私が会議の前に(先行して)準備を終えた。」

9.58 後続格 (Posterior Case)

形式: $\text{-ou}$

あるイベントや時点を基準として、未来の相対的な位置を示す。「〜の後に」という、時間軸上の前後関係をマークする。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ maba}_{\text{後続格}} \text{ tula}.$
  • 私-pha は 会議-ou の後に [出発する-時制].
  • 意味: 「私が会議の後に(後続して)出発する。」

9.59 同時格 (Simultaneous Case)

形式: $\text{-au}$

複数のイベントの時間的な共有を示す。「〜と同時に」「〜している間に」という、イベント間の同期をマークする。

例文:

  • $\text{Ni}_{\text{能格}} \text{ maba}_{\text{同時格}} \text{ tula}.$
  • 私-pha は 歌-au と同時に [踊る-時制].
  • 意味: 「私が歌と同時に踊った。」