10. 証拠性 (Evidentiality)
証拠性は、話者が文で述べられた情報源を特定する子音接辞。名詞的トークンでは格(第9スロット)の直後、動詞的トークンでは法(第7スロット)の直後、第10スロットに付加される。
| 証拠性 | 接辞 | 役割 | 情報源 |
|---|---|---|---|
| 中立証拠性 | ∅/h | neutral | 情報源の言及なし/デフォルト。 |
| 直接証拠性 | dh | direct | 五感(視覚、聴覚など)による直接的な観察。 |
| 伝聞証拠性 | čh | hearsay | 他者からの伝聞、噂、引用。 |
| 推論証拠性 | č̣h | inference | 痕跡、状況、論理的な推測による情報。 |
| 直観証拠性 | b̌h | intuition | 話し手自身の直観、感覚、夢、内省。 |
| 証明証拠性 | p̌h | constructive | 厳密な論理的構成、計算、数学的な証明。 |
| 非経験証拠性 | gh | non-experiential | 神話、架空の世界の知識、普遍的な伝統知識。 |
| 過去証拠性 | kh | personal memory | 話し手自身の過去の記憶や経験。 |
活用例
直前のスロットが子音で終わる場合は、子音連続を避けるために第10スロットの直前に介入母音 -- (-o-)を挿入する。
10.1 中立証拠性 (Neutral Evidentiality)
形式: -∅ / -h [h]
情報源を特に明示しない、あるいは一般的な知識や事実として扱う際のデフォルトの標識。
例:「彼は走っている」(中立的な陳述、もしくは情報源を隠しているが事実として提示している)
10.2 直接証拠性 (Direct Evidentiality)
形式: dh [dʱ]
話し手がその出来事を自分の五感で直接知覚したことを示す。
例: 「彼は走っている」(私は今、自分の目で彼を見ている)、「私はそれを見た」、「私はその音を聞いた」
10.3 伝聞証拠性 (Hearsay Evidentiality)
形式: čh [t͡sʰ]
情報が他の人から伝えられたものであることを示す。話し手自身は直接関与していない。
例: 「彼は走っているらしい」(誰かから聞いた話だが事実として提示)、「彼によると、雨が降ったそうだ」
10.4 推論証拠性 (Inference Evidentiality)
形式: č̣h [ʈ͡ʂʰ]
話し手が、残された痕跡や状況、論理的な考察に基づいて出来事を推測したことを示す。
例: 「彼は走っているようだ」(息切れや汗の痕跡から判断できる)、「地面が濡れているから、雨が降ったに違いない」
10.5 直観証拠性 (Intuition Evidentiality)
形式: b̌h [b̪͡vʱ]
情報源が話し手自身の内的な感覚や直観、あるいは夢の中での経験であることを示す。
例: 「彼は走っている気がする」(根拠はないが、直観的にそう感じる)、「予感がする」、「夢で見た」
10.6 証明証拠性 (Constructive Evidentiality)
形式: p̌h [p̪͡fʰ]
情報が厳密な論理的推論、計算、または数学的/科学的な証明によって導かれたことを示す。高い真理値を伴う。
例: 「彼は走っていると証明された」(幾何学的なモデルにより、彼がそうせざるを得ない)、「計算によれば、結果はこうなる」
10.7 非経験証拠性 (Non-Experiential Evidentiality)
形式: gh [gʱ]
情報が個人の経験を超えた、神話、伝説、あるいは架空の世界の知識であることを示す。
例: 「彼は走っている」(この物語の法則として、彼はそうする運命にある)、「古代の物語によると、神々は地に降り立った」
10.8 過去証拠性 (Personal Memory Evidentiality)
形式: kh [kʰ]
情報源が、話し手自身が過去に行った行為、または経験した出来事の記憶であることを示す。直接証拠性と違い、過去証拠性を用いると記憶の不確実性を暗に含むことになる。他人の話(伝聞)よりも信頼できるが、現在の自分の目撃(直接)よりは不確実であることを表す。
例: 「彼は走っていた」(私の記憶では、確かに彼が走っていた。)、「(思い出すと)私はあの時、確かにそこにいた」、「その書類にはサインしなかった」(私の記憶が正しければ、サインはしていない。)