4. 文法アスペクト (Grammatical Aspect)

文法アスペクトは、話者がその行為や状態をどのような時間的・様態的視点から捉えているかを表現する母音接辞。語根、もしくは意味派生接辞の直後(第4スロット)に付加される。

4.1 中立相 (Neutral Aspect)

形式: ∅(接辞なし)/ a [a]

行為や状態を、特定の開始点、終了点、進行状況などを強調せず、中立的な視点から描写する。最も一般的な記述や、普遍的な真理を述べる際に用いる。世界の「普遍的な現象」を、話者の主観を強く介入させずに表現する。デフォルトの文法アスペクトであり、態もデフォルトの能動態である場合には接辞は付加しない。態が接辞を伴う場合は a が付加される。

例: 「鳥が飛ぶ(一般的な行為)」、「水は流れる(普遍的な真理)」、「彼は人間だ(一般的な状態)」

4.2 進行相 (Progressive Aspect)

形式: eũ [eʊ̃]

行為が現在、特定の時間軸上で展開していることに焦点を当てる。話者が「今、この瞬間の流れ」を捉える視点を示す。開かれた空間での流動的な進行。世界の「流動性」を、話者の「リアルタイム」の意識で捉える。

例: 「まさに鳥が飛んでいる」、「水が今、流れている」、「彼が今、考えている最中だ」

4.3 将然相 (Imminent Aspect)

形式: i [i]

行為がまさに今にも始まろうとしている、あるいは発生寸前の状態であることに焦点を当てる。話者がその「予兆」や「切迫感」を強く意識する視点を示す。始まりへの高まり、切迫した瞬間。

例: 「彼女は今にも窓の外を眺めようとしている(何かを感じ取ったかのように)」

4.4 開始相 (Initiative Aspect)

形式: ou [oʊ]

行為がすでに始まったこと、または始まりつつあるプロセスに焦点を当てる。将然相が始まりの「直前」であるのに対し、こちらは「開始そのもの」または「継続的な開始プロセス」を示す。内側からまとまりながらの行動開始。

例: 「彼は目を覚まし、ぼんやりと天井を眺め始めた」

4.5 達成相 (Completive Aspect)

形式: u [u]

行為が特定の目標や結果に達し、その瞬間が完了したことに焦点を当てる。行為の終焉そのものよりも、「終点への到達」が重要であり、その結果が現在に影響を及ぼす「完了」のニュアンスも含む。完全な完結、安定した結果。

例: 「彼は調査対象の鳥を眺め終えた」

4.6 継続相 (Durative Aspect)

形式: ei [eɪ]

行為が特定の期間にわたって中断なく、または反復的に継続していることに焦点を当てる。進行相が「今、この瞬間」であるのに対し、こちらはより「長い期間」や「一般的な持続」を強調する。時間の流れの中での途切れない連続。

例: 「彼は何十年も同じ場所から海を眺め続けている」

4.7 反復相 (Repetitive Aspect)

形式: o [o]

同一の行為が周期的、あるいは非連続的に複数回繰り返されることに焦点を当てる。個々の行為が完結しては再び始まる、サイクルの繰り返しを強調する。繰り返しのサイクル、反復的なまとまり。存在の「周期性」や「繰り返されるパターン」を捉える。

例: 「鳥が何度も飛ぶ」、「水が(干上がっては)また流れる」、「彼が何度も考え直す」

4.8 分散相 (Distributive Aspect)

形式: ã [ã]

行為が複数の対象に、あるいは複数の場所で、または不連続的に行われることに焦点を当てる。行為の「広がり」や「分散」を強調する。存在の「多様な相互作用」や「多面的な展開」を捉える。

例:「鳥たちがそれぞれ飛んでいく」、「水が(枝分かれして)あちこち流れる」、「彼が(様々な問題について)考える」