7. 法 (Mood)

法は、話者が命題の真理値、確信度、論理的必然性、あるいは強制力に対してどのような立場を取るかを表現する子音接辞。時制(第6スロット)の直後(第7スロット)に付加される。

  1. 事実・認知クラス: 中立的な事実と、認識の確信度。
  2. 強制・義務クラス: 外部または内部からの働きかけ。
  3. 論理・体系クラス: 命題の形式的な構造と必然性。
  4. 非現実・願望クラス: 現実から逸脱した主観的な世界。

極性(第11スロット)との呼応

極性(第11スロット)と呼応して下記のような意味を表す。

クラス 肯定の意味 否定の意味 役割
事実・認知 直説法 (l) 〜である/〜する(中立的事実) 〜ではない/〜しない(中立的事実の否定) 事実の有無を中立的に記述。
  蓋然法 (m) 〜だろう(高い確信) 〜ではないだろう(高い確信の否定) 推測の対象の極性を示す。
強制・義務 命令法 (t) 〜せよ(最も強い強制) 〜するな(禁止)(強い強制的な禁止) 行為を強制的に阻止する。
  要請法 (s) 〜してほしい(丁重な依頼) 〜しないでほしい(丁重な依頼による回避) 依頼の実行または不実行を示す。
  勧誘法 (k) 〜しよう(共同行動の提案) 〜しない方がいい(共同行動の回避提案) 提案の内容が実行か回避かを示す。
非現実・願望 祈願法 (r) 〜せんことを(強い願い) 〜せざらんことを(強い願いによる阻止) 願いの対象の極性を示す。
  許容法 (z) 〜しても大丈夫(論理的な許容) 〜しなくても大丈夫/〜しなくてよい(不必要性の容認) 命令法 (t) の否定(禁止)とは異なり、不必要性をマークする。
  仮定法 (p) もし〜ならば(非現実の仮説) もし〜でないならば(非現実の仮説の否定) 仮説の命題の極性を示す。
論理・体系 公理法 (f) 〜だと定義される/〜が公理である 〜ではないと定義される/〜が公理ではない 形式体系内での定義の成立/不成立を示す。
  必然法 (g) 〜でなければならない(論理的必然 □) 〜である必要はない(必然性の否定 ¬□) 命令法 (t) の否定(禁止)とは異なり、論理的な必然性の欠如をマークする。
  可能性法 (x) 〜かもしれない(論理的可能性 ◊) 〜ではない可能性がある(可能性の否定 ¬◊) 可能性の対象の極性を示す。

7.1 直説法 (Declarative Mood)

形式: l [l]

命題を中立的な事実として記述する。話者の個人的な確信度や強制力を含まず、最も基本的な情報伝達のモード。

例: 「彼はここにいる(中立的事実)」

7.2 蓋然法 (Probable Mood)

形式: m [m]

命題の真理値に対する高い確信度の推測を示す。情報源が不完全ながらも、話者の認知に基づいて「〜だろう」という蓋然性を強調する。

例: 「彼はおそらく成功するだろう(高い確信)」

7.3 命令法 (Imperative Mood)

形式: t [t]

最も強い、絶対的な強制力を伴う。肯定では「〜せよ」、否定(極性$\text{ei}$との連鎖)では「〜するな(禁止)」として機能する。

例: 「今すぐ立ち上がれ(強い強制)」

7.4 要請法 (Requestive Mood)

形式: s [s]

丁重な依頼や要望を示す。命令法のような強制力ではなく、聞き手への働きかけとしての穏やかな義務付けを伴う。

例: 「それを私に渡してほしい(丁重な依頼)」

7.5 勧誘法 (Hortative Mood)

形式: k [k]

共同行動の提案を示す。「〜しよう」という形で、話し手と聞き手を巻き込んだ行為を促す。否定では「〜しない方がいい(共同回避の提案)」となる。

例: 「我々は一緒に食事をしよう(共同提案)」

7.6 祈願法 (Optative Mood)

形式: r [r]

強い願いや希望を示す。命題が現在の非現実に属し、話者の主観的な願望によって実現が試みられていることを表現する。

例: 「平和が訪れんことを(強い願い)」

7.7 許容法 (Permissive Mood)

形式: z [z]

行為が論理的、あるいは社会的に許容されることを示す。否定(極性$\text{ei}$との連鎖)では、不必要性の容認(「〜しなくてよい」)をマークし、命令法(禁止)とは明確に区別される。

例: 「あなたはここを歩いても大丈夫だ(許容)」

7.8 仮定法 (Conditional Mood)

形式: p [p]

非現実の仮説を示す。「もし〜ならば」という形式で、現実とは異なる可能性の世界を構築する。

例: 「もし私が鳥ならば、飛ぶだろう(非現実の仮説)」

7.9 公理法 (Axiomatic Mood)

形式: f [f]

命題が形式的な体系内における定義、公理、あるいは自明の真理であることを示す。知識の絶対的な基盤をマークする。

例: 「これは三角形だと定義される(公理)」

7.10 必然法 (Necessitative Mood)

形式: g [g]

命題が論理的に必然であること($\Box \text{P}$)を示す。物理法則や厳密な論理から導かれる不可避性をマークする。否定では「〜である必要はない」($\neg \Box \text{P}$)となる。

例: 「この計算は正しくなければならない(論理的必然)」

7.11 可能性法 (Possibility Mood)

形式: x [x]

命題が論理的に可能であること($\Diamond \text{P}$)を示す。事象が発生する余地や可能性の領域をマークする。否定では「〜ではない可能性がある」($\neg \Diamond \text{P}$)となる。

例: 「それは起こる可能性がある(論理的可能性)」