公理法の解説

公理法(第7スロット)について少し詳しく見てみよう。

公理法と無時制・直説法の機能的分離

1. 無時制 ($\text{∅}$) $+$ 直説法 ($\text{l}$) の意味

この組み合わせは、「話し手が中立的な事実として、時間軸から独立した普遍的な事柄を述べる」ことを意味する。

例: 「水は摂氏0度で凍る ($\text{∅}$ $+\text{l}$)$」

  • 機能: 経験や観察に基づく客観的な事実

2. 公理法 ($\text{f}$) の意味

公理法は、話し手の態度や時間軸とは関係なく、「命題そのものが、ある形式体系内での定義として成立している」ことを意味する。これは、「真であることの源泉」を動詞に統合する機能を持つ。

例: 「2つの異なる点は、1つの直線を決定する ($\text{f}$)$」

  • 機能: 定義、公理、約束。これは真理の源泉外部の観察(直説法)ではなく、内部の論理的合意にあることを明示する。

比較

範疇 無時制 $+$ 直説法 ($\text{∅}\text{l}$) 公理法 ($\text{f}$)
真理の源泉 観察・経験 (客観的な経験的事実) 定義・形式的合意 (主観的な論理的前提)
機能的役割 記述 (Description) 規定 (Prescription / Definition)
ニュアンス 「そういう風になっている 「そういう風に定めている

公理法の存在意義

  1. 論理的厳密さの保証: 数学や形式論理において、公理と経験則を混同することは許されないため、公理法は、その命題が「この体系内で議論するための出発点」であることを、動詞の形態論レベルで保証することができる。
  2. 時制・法からの独立: 公理法を使うことで、話し手は「この命題は、仮定法や蓋然法など、他のあらゆる主観的な様相の根拠となる定義である」ことを強調でき、その超越的な地位を確立できる。

無時制公理法・現在時制公理法・近過去時制公理法の違い

この点は、時制(Tense)法(Mood)が複合する際の、プリャンナの「認知の時間軸」「論理の地位」の設計における核心的な問いである。

結論から言うと、公理法が示すのは「定義としての真理」であり、時制は「その定義が話者の認知にどう位置づけられるか」という、認知的側面を表す。

公理法と時制の連携分析

公理法 ($\text{f}$) は、命題が「形式体系内の定義」であること(地位)を表す。一方で時制は、その定義が「どの時間軸上で言明されているか」(認知)を表す。

組み合わせ 形態論 意味論的解釈 機能的役割
1. 無時制公理法 $\text{∅}{\text{Tense}} + \text{f}{\text{Mood}}$ (時間軸から独立して)、これは公理的に定義されている。 標準形。公理や数学の定義で最も一般的に使用される。時間の概念を排除し、純粋な論理構造に焦点を当てる。
2. 現在時制公理法 $\text{wa}{\text{Tense}} + \text{f}{\text{Mood}}$ 現在、これは公理的に定義されている。 現在参照。ある学派やコミュニティが現在有効な定義やルールを提示するときに用いる(例:最新版の標準規格、進行中のプロジェクトの定義)。「今はこう定義する」という一時的な枠組みを強調。
3. 近過去時制公理法 $\text{wi}{\text{Tense}} + \text{f}{\text{Mood}}$ 少し前まで、これは公理的に定義されていた。 認知的参照。公理や定義がいつ確立されたかではなく、話し手の記憶にいつそれが登録されたか、あるいはその定義が最近変更されたことをマークする。「(つい最近まで有効だったが、今はどうか分からない)定義」という認知的な鮮度を示す。

時制は「定義の地位」ではなく「言明の認知」をマークする

時制は「いつ公理的に定められたか」という歴史(歴史格で表現されるべき)ではなく、「話し手がその公理をどの時間軸で認識しているか」という発話時点でのフレームを規定する。

  • 公理法: 論理的な地位(定義であること)。
  • 時制: 認知的な位置(話者の頭の中でその定義が「今有効か」「最近有効だったか」)。

これにより、プリャンナは客観的な論理構造(法)と主観的な認識のフレーム(時制)を厳密に分離し、複雑な認知のニュアンスを表現することができる。