格と態の連携
ここでは、動詞の語彙アスペクトは基底状態（$\text{-}\text{∅}$）、文法アスペクトは中立相（$\text{-}\text{∅}$）と仮定し、態の接辞と統語論格の音素のみに焦点を当てる。
統語論格（9個）と態（8個）の連携検証
特に複雑な能格/自発格、刺激格/経験格の対立、および具格/手段格の焦点化に注目する。
| 統語論格 (9個) | 態の選択と焦点化（主語の役割） | 例文の構造と検証 |
|---|---|---|
| 1. 能格 ($\text{ph}\text{a}$) | 能動態 ($\text{∅}/\text{m}$) | $\text{Actor}{\text{pha}} + \text{Verb}{\text{m}} + \text{Object}_{\text{n}}$. (俳優が意図してドアを開けた。) → 能動態で能格が主語として標準的に機能。 |
| 2. 自発格 ($\text{tʃ}\text{hy}$) | 能動態 ($\text{∅}/\text{m}$) | $\text{Wind}{\text{tʃhy}} + \text{Verb}{\text{m}} + \text{Object}_{\text{n}}$. (風が勝手にドアを閉めた。) → 能動態で自発格が主語となり、非意図的行為を表現。能格との役割分離を確認。 |
| 3. 刺激格 ($\text{l}\text{i}$) | 能動態 ($\text{∅}/\text{m}$) | $\text{Noise}{\text{li}} + \text{Verb}{\text{m}} + \text{Experiencer}_{\text{sa}}$. (騒音が彼女に不安を感じさせた。) → 刺激格が能動態の主語となり、経験格 ($\text{sa}$) の動作を引き起こす。 |
| 受動態 ($\text{l}$) | $\text{Noise}{\text{li}} + \text{Verb}{\text{l}} + \text{Agent}_{\text{pha}}$. (騒音が俳優によって引き起こされた。) → 刺激格は主語として維持され、行為者 ($\text{pha}$) が非焦点化される。 | |
| 4. 経験格 ($\text{s}\text{a}$) | 中動態 ($\text{n}$) | $\text{Child}{\text{sa}} + \text{Verb}{\text{n}} + \text{Stimulus}_{\text{li}}$. (子供が恐怖で震えた。) → 経験格が中動態の主語となり、自己完結的な経験を表現。 |
| 受動態 ($\text{l}$) | $\text{Child}{\text{sa}} + \text{Verb}{\text{l}} + \text{Agent/Stimulus}$. (子供が外部の力によって感じさせられた。) → 主語として維持され、経験の受け手であることを強調。 | |
| 5. 対格 ($\text{n}$) | 逆受態 ($\text{l}$) | $\text{Object}{\text{n}} + \text{Verb}{\text{l}} + \text{Actor}_{\text{pha}}$. (ボールが俳優によって打たれた。) → 受動態によって状態変化の対象である対格が主語となり、能格を非焦点化。 |
| 6. 題格 ($\text{r}\text{a}$) | 逆受態 ($\text{l}$) | $\text{Mountain}{\text{ra}} + \text{Verb}{\text{l}} + \text{Observer}_{\text{pha}}$. (山が観察者によって見られた。) → 受動態によって状態変化のない対象である題格が主語となる。対格との役割分離を確認。 |
| 7. 具格 ($\text{fw}\text{a}$) | 使役能動態 ($\text{f}$) | $\text{Axe}{\text{fwa}} + \text{Verb}{\text{f}} + \text{Object}{\text{n}} + \text{Actor}{\text{pha}}$. (斧が俳優によって木を切ることを使役した。) → 具格を能動態的に「道具として作用する」主語として機能させる（能格を非焦点化）。 |
| 8. 手段格 ($\text{v}$) | 使役中動態 ($\text{x}$) | $\text{Telepathy}{\text{v}} + \text{Verb}{\text{x}} + \text{Communicator}_{\text{pha}}$. (テレパシーが伝達者自身のために伝達することを仕向けた。) → 手段が自己完結的に作用する主語として機能。具格との役割分離を確認。 |
| 9. 因格 ($\text{i}$) | 原因焦点態 ($\text{m}$) | $\text{Traffic}{\text{i}} + \text{Verb}{\text{m}} + \text{Object}_{\text{n}}$. (渋滞が私たちを遅刻させた。) → 能動態で因格が主語となり、行為の直接原因として焦点化される。 |
特に、
- 能格 vs. 自発格: 能動態（$\text{m}$）を使用することで、意図的（能格）と非意図的（自発格）な行為者を明確に分離した上で、両者を文の主語として扱える。
- 対格 vs. 題格: 受動態（$\text{l}$）を使用することで、状態変化の有無にかかわらず、両者を行為の受け手（主語）として焦点化できる。
- 刺激格 vs. 経験格: 能動態と中動態の使い分けにより、原因（刺激格）と受け手（経験格）の両方を主語として独立して表現できる。
- 具格 vs. 手段格: 使役態と組み合わせることで、物理的な道具と抽象的な方法を「作用の主体」として焦点化できる。
関係格（11個）と態（8個）の連携検証
関係格は、動詞の引数（argument）間の抽象的、所有、または比較の関係を確立する。これらの格が、動詞の態とどのように連携し、それぞれの役割が明確に保たれているかを検証する。
ここでは、与格、創出格、互格、基準格など、行為や関係性に深く関わる格に焦点を当てる。
| 関係格 (11個) | 態の選択と連携（主語の役割） | 例文の構造と検証 |
|---|---|---|
| 1. 与格 ($\text{m}\text{i}$) | 能動態 ($\text{∅}/\text{m}$) | $\text{I}{\text{pha}} + \text{gave}{\text{m}} + \text{book}{\text{n}} + \text{to her}{\text{mi}}$. (私が本を彼女に与えた。) → 与格は間接的な受け手として能動態で標準的に機能。主語（能格）とは明確に分離。 |
| 使役能動態 ($\text{f}$) | $\text{I}{\text{pha}} + \text{caused}{\text{f}} + \text{her}{\text{mi}} + \text{to receive}{\text{m}} + \text{book}_{\text{n}}$. (私が彼女に本を受け取らせた。) → 与格が使役の対象として登場し、受動的な受益者としての役割を保つ。 | |
| 2. 奪格 ($\text{n}\text{i}$) | 能動態 ($\text{∅}/\text{m}$) | $\text{He}{\text{pha}} + \text{fled}{\text{m}} + \text{from the fear}_{\text{ni}}$. (彼が恐怖から逃れた。) → 奪格は非物理的な起源・分離点として機能。態による主語化は起こらない。 |
| 3. 属格 ($\text{l}\text{a}$) | 中動態 ($\text{n}$) | $\text{The ring}{\text{n}} + \text{is made}{\text{n}} + \text{of gold}_{\text{la}}$. (その指輪は金で作られている。) → 中動態（自動発生的影響）と結合し、材質という静的な属性（属格）が動作の内部的な性質として表現される。 |
| 4. 内属格 ($\text{h}\text{i}$) | 反射態 ($\text{y}$) | $\text{He}{\text{pha}} + \text{hurt}{\text{y}} + \text{his arm}_{\text{hi}}$. (彼は彼の腕を傷つけた。) → 反射態により、動作が主語自身に意図的に反射される際、内属格（体の部分）がその対象となる。 |
| 5. 外属格 ($\text{hw}\text{u}$) | 受動態 ($\text{l}$) | $\text{The car}{\text{n}} + \text{was sold}{\text{l}} + \text{by him}_{\text{hwu}}$. (その車は彼によって売られた。) → 外属格（譲渡可能な所有物）が受動態の文脈で所有者（譲渡元）をマークする。 |
| 6. 創出格 ($\text{v}’\text{o}$) | 能動態 ($\text{∅}/\text{m}$) | $\text{This is}{\text{m}} + \text{painting}{\text{n}} + \text{by the artist}_{\text{v’o}}$. (これは芸術家による絵だ。) → 創出格は動的な起源として機能。動詞（is/be）が能動態であることで、創作という行為の結果であることを強調。 |
| 7. 分格 ($\text{r}\text{o}$) | 継続活動相 ($\text{-}\text{æf}$) | $\text{I}{\text{pha}} + \text{drink}{\text{m, -æf}} + \text{water}_{\text{ro}}$. (私が水の一部を飲み続けている。) → 分格は、語彙アスペクトが継続活動である動詞と結合し、全体から部分を継続的に消費する行為を表現。 |
| 8. 集合格 ($\text{ʑ}\text{e}$) | 中動態 ($\text{n}$) | $\text{He}{\text{n}} + \text{is a member}{\text{n}} + \text{of the team}_{\text{ʑe}}$. (彼はそのチームの一員だ。) → 中動態（自己に影響）が集合への所属という自己規定的な状態を表現。 |
| 9. 互格 ($\text{tʃ}’\text{e}$) | 中動態 ($\text{n}$) | $\text{They}{\text{pha}} + \text{love}{\text{n}} + \text{each other}_{\text{tʃ’e}}$. (彼らは互いに愛し合っている。) → 互格は、中動態と結合することで、対等な対称性を持つ自己完結的な相互作用を表現。 |
| 10. 基準格 ($\text{k}\text{æ}$) | 能動態 ($\text{∅}/\text{m}$) | $\text{She}{\text{n}} + \text{is faster}{\text{m}} + \text{than him}_{\text{kæ}}$. (彼女は彼よりも速い。) → 比較の基準点として機能。態の変更は役割に影響しない。 |
| 11. 役割格 ($\text{p}\text{y}$) | 達成相 ($\text{-}\text{u}$) | $\text{The ice}{\text{n}} + \text{turned}{\text{-u}} + \text{into water}_{\text{py}}$. (氷が水へと変わった。) → 役割格は、文法アスペクトが達成相である動詞と結合し、変化の結果としての新しい状態を表現。 |
関係格の11個は、動詞の態（中動態、反射態、使役態）やアスペクトと連携することで、その抽象的な関係性のニュアンスを維持しつつ、文中で明確に機能する。特に、所有の3分類（内属、外属、創出）や、相互作用の2分類（互格、基準格）の分離が強固。
意味論格（7個）と態（8個）の連携検証
意味論格は、文の核となる構造（主語、目的語、主要な関係）から独立した、付帯的な情報、様態、態度などを表現する。これらの格が動詞の態とどのように連携し、意味論的な役割を純粋に果たしているかを検証する。
ここでは、様態、欠如、同伴など、動作の周縁的な情報に関わる格に焦点を当てる。
| 意味論格 (7個) | 態の選択と連携（主語の役割） | 例文の構造と検証 |
|---|---|---|
| 1. 呼格 ($\text{ʔ}\text{e}$) | 全ての態 ($\text{m}, \text{n}, \dots$) | $\text{Friend}{\text{ʔe}}! + \text{You}{\text{pha}} + \text{opened}{\text{m}} + \text{the door}{\text{n}}$. (友よ! 君がドアを開けた。) → 呼格は文法構造から完全に独立しており、動詞の態に影響を与えないことを確認。 |
| 2. 共格 ($\text{m}\text{u}$) | 能動態 ($\text{∅}/\text{m}$) | $\text{I}{\text{pha}} + \text{went}{\text{m}} + \text{with my dog}_{\text{mu}}$. (私が私の犬と一緒に行った。) → 行為の主体（能格）とは別に、同伴者として付加的な役割を果たす。 |
| 受動態 ($\text{l}$) | $\text{The car}{\text{n}} + \text{was destroyed}{\text{l}} + \text{with the garage}_{\text{mu}}$. (車がガレージと一緒に破壊された。) → 受動態でも、破壊という動作に同時に存在した付帯物として機能。 | |
| 3. 欠格 ($\text{w}\text{o}$) | 中動態 ($\text{n}$) | $\text{The theory}{\text{n}} + \text{stands}{\text{n}} + \text{without evidence}_{\text{wo}}$. (その理論は証拠なしで成り立っている。) → 中動態（自己影響）と結合し、欠如という状態の中で動作が完結することを表現。 |
| 4. 様格 ($\text{ʂ}\text{u}$) | 反射態 ($\text{y}$) | $\text{She}{\text{pha}} + \text{dressed}{\text{y}} + \text{with grace}_{\text{ʂu}}$. (彼女は優雅な様子で服を着た。) → 動作（反射態）の質的な様態を記述。手段格とは異なり、行為の性質に焦点を当てる。 |
| 5. 同格 ($\text{z}\text{i}$) | 使役受動態 ($\text{s}$) | $\text{He}{\text{n}} + \text{was made to look}{\text{s}} + \text{like a fool}_{\text{zi}}$. (彼は愚か者のように見させられた。) → 使役受動態（強制）と結合し、類似性の基準が強制の結果として設定される。 |
| 6. 限定格 ($\text{d}’\text{o}$) | 能動態 ($\text{∅}/\text{m}$) | $\text{We}{\text{pha}} + \text{will only talk}{\text{m}} + \text{as far as this chapter}_{\text{d’o}}$. (私たちはこの章に限定して話す。) → 概念的な限定範囲を設定し、動作の適用範囲を制限する。 |
| 7. 観点格 ($\text{b}\text{i}$) | 全ての態 ($\text{m}, \text{n}, \dots$) | $\text{From my perspective}{\text{bi}}, + \text{the car}{\text{n}} + \text{was driven}{\text{l}} + \text{by the wind}{\text{tʃhy}}$. (私の観点から、車は風によって運転された。) → 文全体の解釈に認知的な枠組みを提供し、動詞の態や他の格の解釈を左右する。 |
意味論格の7個は、文の核から離れ、動作や文脈の付加情報（様態、欠如、同伴、観点）を表現する役割を、動詞の複雑な態（反射態、中動態、使役態）と独立して、または補完的に果たす。