具格と手段格
特に抽象的な対象に関して、具格と手段格は共に「~という方法を用いて」というような意味を持つが、どちらの格を取るかによって、文が示す「道具」や「方法」の性質、ひいては文全体のニュアンスが異なってくる。
- 具格は、物理的・具体的なものとして扱われる「言葉」(特定のフレーズ、音、文字)が、行為の道具となることを示す。
- 手段格は、抽象的な方法や媒介としての「言葉」(言語というシステム、コミュニケーション様式)が、行為を可能にする経路となることを示す。
具格
[彼]-能格 [言葉]-具格 [感情]-対格 [伝える]-能動態
「彼が、(具体的な音としての)言葉を(道具として)使って、感情を伝えた。」
ここでの「言葉」は、「音波」や「文字」といった物理的な媒体、あるいは特定の「フレーズ」や「語句」といった具体的な構成物として捉えられる。まるでペンや紙のように、情報を乗せるための物理的な器としての「言葉」を強調する。感情を伝えるために、「どういう言葉を使ったか」という具体的な表現の選択に焦点が当たる。
例: 「彼は強い言葉で怒りを伝えた。」(強い「フレーズ」や「表現」という具体的な言葉の形が道具)
手段格
[彼]-能格 [言葉]-手段格 [感情]-対格 [伝える]-能動態
「彼が、言葉(という伝達方法)によって、感情を伝えた。」
ここでの「言葉」は、「言語というシステム」や「口頭でのコミュニケーション」といった抽象的な「方法論」や「経路」として捉えられる。具体的な言葉の選択よりも、「非言語的手段ではなく、言語的手段を用いた」という「コミュニケーションの様式」そのものに焦点が当たる。
例: 「言葉によってしか、この複雑な感情は伝えられない。」(「言語」という伝達手段全体への言及)